――声を聞いただけで、背筋が甘く疼くのは……さすがにマズイと思う。


Sweet voice


 夜遅く、報告をしにきただけのルキーノが淡々と書類を読み上げ、 必要書類を机に置いて立ち去ろうとするのを見て思わず呼び止めた俺は、 もうこの男にどれだけ溺れているのだろうかと、自らに問いかけてしまった。
「どうした?ジャン」
 不敵な笑みで振り返るルキーノは、ある程度予想していたのだろう。 その笑みと声を聞いただけで、俺の体が甘く疼いたのが分かった。 きっとルキーノにも見えていただろう。
 1週間ほどルキーノはスイスへ出張していた。 シノギに関わることなので行かなきゃならないと言われ、渋々許可を出したのは10日前。 行く前に散々貪られてルキーノの匂いから何から全て刻み込まれたこの体は、 たった1週間離れただけで中毒者のように夜中に震えるようになっていた。 つまりは、それだけ溺れているってことで、そりゃ俺の体だと分かっていながら心配にもなるだろう?
「この後の予定は?ルキーノ」
 なんとか平常心を保って、それでも滲み出る甘い声でルキーノに問いかける。 できれば、俺の予定は聞かないでほしい。 まだ仕事が残っているのは知っている。 だがそれは今日中にしなきゃいけないことではない。 明日でも十分間に合う。 だからほら、俺にはこの後予定はないってことで。 ルキーノにも予定がないことを心の隅で必死に祈っているのだが。
「食事が1件入っているだけだ」
 ちょっと絶望的になりそうだった。だがそれだけ、その1件が終われば……。
「そっか、んじゃその後か」
「なんだ?もう……欲しいのか?」
「あぁ。我慢できそうにないネ」
 誰がこんな体にしたと思ってるのやら。俺は本来、男相手はタチだったはずなのに……。 この男相手にタチになれるとは思わないけどな。
「だったら今から食事にするか」
「は?」
 思わずキョトンとしてしまう。食事……って、まさか。
「……俺を喰うってことだったのかよ、この変態」
「それ以外に予定なんてあるわけないだろう?」
 こんな時間で、といい笑顔でそんなことをほざくこの男。なんで俺、こんなヤツに惚れ込んじまったのか。 ラッキードッグ人生最大の謎かもしれない。
「予約はあらかじめ取ってあったと思うが?まさかお前に予定なんてあるわけないよな?」
 あぁあぁお前はそういうヤツだよな。この野獣め。
「あ〜ら、アタクシまだ仕事が残ってますの」
「この書類か?どう見ても余裕があるよな?」
 抜け目ないな、まったく。ここは諦めて野獣に喰われないとならないらしい。 まぁ、俺の体もそれを望んでいるのは確かだ。拒む理由もない。
「我慢できないんだろう?」
「……っ」
 顎を取られて上を向かされる。 身長差のせいで見上げなければならないのが悔しいところだが、 下から覗きこむ陰のある顔が実は結構好きだったりする。
「ここでシテいいか?」
「うぇ!?いや、それはカンベンっ……んぁ」
 さすがに執務室はヤバイだろうと訴えてもルキーノの手は止まらない。
「鍵はかけた」
「……準備のヨロシイことで……」
 呆れるしかないだろう。我慢できなかったのはお互い様だったらしい。 こんな時間に報告に来たのも、声が甘く聞こえたのも、予定がないのも、鍵をかけたのも全てこのため。 それなら別に俺から誘いをかける必要なかったなぁ……。下手すると滾らせた可能性もあると思う。
 明日、せめて昼頃には動けるようになればいいな〜と思いながら、ルキーノからの1週間ぶりの口付けに俺は酔いしれるのだった。





END


アトガキ

ちょっと雑ですが眠い時に書いたのでしかたない。時間があれば後で加筆修正したいと思います。 寸止めばっか書いてるなぁ……ガッツリえろ書きたい(爆)

2009/07/25